沢田研二

 昨晩、テレビを見ているとうちの奥さんが「ブ、ブタが歌ってる、、、。」
テレビで歌っていたのは、沢田研二。番組はNHKの「songs」
 う〜ん、確かに、、、、でもなあ、、。
僕より一回り下の奥さんは、ジュリーの最盛期をまったく知らないと言う。
彼の最盛期に十代だった人たちは、彼が当時の音楽シーンでもかなり飛び抜けた存在だったという記憶がやきついていると思うけど、確かに彼がテレビに積極的に出なくなって久しい。

どうでもいい話だけど、僕は日本で歌謡界、ポップ、ロック問わず、史上最高の男性ヴォーカリスト沢田研二だということに10年前くらいに勝手に決めた。十代の頃は、新曲を出すたびにドキドキさせてくれた彼のエンタテインメント性にばかり惹かれていたけど、年をとって、長く音楽の仕事についていると、歌手としての彼がいかに特別なのか、よくわかるようになった。うまい、へた、どうこうじゃなく(もちろんとてもうまい人だ)、声の響きに、色気というか、人の本能に働きかけてくるようなつややかなニュアンスがある。

 しかし、いまTVに映っている彼は本当に太っている。かつての彼の「美しさ」に虜になった人たちはどんな思いで見ているのだろう。何年か前に彼は太ったことについて、「年をとってからダイエットしたり、鍛えたりするとシワが出てしまう。美しく老いるには、脂肪が必要なのだ」といったようなことを話していて、へえーと思ったのだが、その信憑性についてはよくわからない。

 ただ、今は老いることへの恐怖心が日本中に蔓延しているように思う。「昔とちっとも変わらないですね。」というのが年配の方への最上の褒め言葉であるような気さえする。(40代半ばにさしかかった僕も時折強迫観念にかられてスポーツジムに駆け込んでしまう、、、)

 でも考えてみると、年をとっても元気なのはいいけど、若さにしがみつきすぎるのは、なにか品のないことに思える。健康に留意しながらもゆっくり、しっかり老いてゆく、そして老いたなりの別の魅力を発揮することが本来あるべき姿のはずだ。太った元気でおちゃめなおじさん、という姿に変貌した沢田研二は、そうした世の中の不自然な価値観をきっぱり拒否しているようでもある。そして、彼は長くインディーズ活動をし、ライヴに活動の中心を移し、世の中に警鐘を鳴らすような歌詞を書いている。ショーケンの自伝でも書かれていたが、ジュリーはものすごく気骨のある人物なのだ。この今の姿には、もっと深い彼なりの考えがあるようで、その辺の真意を知りたい。