馬飼野康二

 最近の日本のヒット曲で「おおっ」と思ったタイトルは「真夜中のシャドーボーイ」(Hey!Say!JUMP)だ。80年代によくあった洋楽の日本語タイトルを思い出させる。なんだか意味がよくわかんなくても気にならない、そんな「ノリ勝負」な語感に久々にぐっときた。タイトルだけじゃなくて、実に曲もよく出来ている。これぞジャニーズ歌謡という見本のようなメロディーだ。
 作曲は馬飼野康二さん。ネットで調べると今年で60歳らしい。すごい。この曲の次にオリコン一位になった関ジャニの「無責任ヒーロー」もこの人が書いている。まさにノリに乗っている。

 この10年くらいで筒美京平氏はすっかり「神格化」された感じがあって、最近の中川翔子の「奇麗ア・ラ・モード」(さすがに素晴らしいメロディーだ)のように意識的な「筒美京平」ワールドを求められているのに対して、今も現役の若手作家と競い合って勝利している感じの馬飼野氏の才能もまた驚異的なもので、もっときちんと評価されるべきだろう。

 僕もけっこう筒美京平作品は聴き直していたのだが、馬飼野作品は正直ちょっと軽くみていた。彼のヒット曲が明るく軽快すぎるものが多いこともあるかもしれない。でも僕が小学生のときにシングル盤を買った「愛のメモリー」(松崎しげる)や「傷だらけのローラ」(西城秀樹)などはかなり「濃ーい」曲だし、実は相当懐の深い作家なのだ。(そうじゃなかったら30年以上ヒットを出し続けるなんて無理だろうけど)

JASRACのページに彼のインタビューが載っていて読んでみると、キャリアの初期の頃に映画音楽をBGM用にアレンジする仕事を相当やっていたようだし、その後筒美作品をはじめさまざまなヒット曲のアレンジを手がけていて、その圧倒的な仕事量と、そしてそれをきちんと自分に吸収していったことが、彼のキャパシティーを広げていったことは想像できる。

 僕はけっこう長く作家の作品提供の仲介みたいなことをやっているが、今は職業作家にはあまり恵まれた状況ではないなあ、と思うことが多い。メジャーレーベルの知り合いに聞いても、音楽学校の方の話でも、最近はシンガーソングライター希望が多いらしい。困難な時代になればなるほど、そんな中での自分の気持ちを全開にしてリアルに言葉にしていこうとする人が増えるのが自然だと思うし(ガス抜きにもなるし、、)、それを自分と同じ気持ちだ!などと共感する人も多いだろう。だけど、そういうものばかりになると、いっそう息苦しくならないのかな?とも思う。
 逆に、よくできたフィクション、現実を忘れさせてくれるような絵空事が気持ちをぐっと明るくしてくれることもあるはずだ。(そういう意味でアイドルというのは大事な存在意義があって、軽視してはいけないだろう。)そして、そういう大衆の気持ちを解放してくれるものを作れるのはほんとの「プロフェッショナル」じゃなければ無理だろう。

 この10年くらい、みんな「自分」にこだわりすぎていて、音楽の世界もそんな作品が増えていっているように思う。
 どんどん暗くなっていきそうな世の中だから、かえってよく出来た絵空事が、しかもアイドルじゃないジャンルでも作られてほしいなと思うし、そんな意識を持った作家を探していきたいなあ、と思う。