ペットサウンズ・レコード

 昨日は武蔵小山ペットサウンズ・レコードに初めて行った。
僕は、昔からビーチボーイズや古いアメリカのポップスも好んで良く聴いていて、そういった専門誌にもよく目を通していたのでお店の存在も店長の森さんの名前もずいぶん前から知っていたのだが、武蔵小山という土地になじみがないせいか、今まで行かずじまいだった。

 先入観から、洋楽マニアが通いつめるようなかなり個性的なセレクトをしたお店だろうと勝手に思っていたのだが、行ってみて驚いたのは、今はほとんど見かけることの少なくなった「町のレコード屋さん」といった風情にみちたお店で、かえってそこにすごく感激してしまった。
 通りに面したウィンドウには今一番の売れ筋のポルノグラフィティのベストの宣伝ポップがどーんと飾られているが、同時に店内にはビーチボーイズのデニス・ウィルソンのサイン入りLP(「パシフィック・オーシャン・ブルー」。僕の凄く好きなアルバムだ。)が何気なく飾ってある。
 当然、センスある古い洋楽のセレクションやちょっとマニアックな新譜もありながら、売れ筋の新譜もきちんと扱い、かつて大ヒットした歌謡曲やニューミュージックのカタログもある。音楽マニアでもない商店街のひとたちにも老若男女問わず対応しているのだろう、ということがはっきりわかる品揃えだ。

 今から20年以上も前、僕がレコード会社の営業マンとして、各地のレコードショップを回っていた頃、まだ、こういった個人のお店にも活力があって、店員さんとお客さんが親密に話をしている光景をよく見かけた。このお客さんはきっとこの曲、このアーティストを気に入るだろう、という目配りをきめ細かくやっていたお店も多かった。

 ネットの時代になって、アーティストが自身のサイトでお客さんとダイレクトに作品を送ることができるようになって、僕のような「仲介者」はいずれ用がなくなってしまうだろう、などと自虐的になることもある。だが、そこには抵抗感もあって、やっぱりアーティストと聴き手の間にいて「何らかの思いをこめたコミュニケーション」で繋ぐ役割は大事だし、そういった役割にいた無数の人たちが見えない力になってこの業界をささえてきたことはまぎれもない事実だ。
 ビジネス全般で、マスメディアに対する不信感、それによる口コミの効果の重視ということはずっと話題になっているが、不況が押し寄せてきている今、コミュニケーションを重視した販売のあり方を音楽業界も再考するべきじゃないかとも思う。ライヴ会場とか、音楽に関わる場所で、お客さんたちが昔より「交流」を求めてきているムードも最近特に感じる。
 もちろん単純に、「昔の町のレコード屋さんの復権」という風にはならないとは思う。
でも、「音楽のパッケージを売る」という形がなくならないための大きなヒントはそこにあるし、音楽業界がこれ以上味気なくなくならないための、そして携わる人たちのモチベーションを維持させるためのヒントもまたあるように思う。

 と、えらそうに書いてきたが、変化の激しいこの業界の中で森さんがお店を維持してここまでやってきたのは相当大変なことだったろうなあと思う。こういうお店がまた少しずつでも増えればいいなあ。