音楽(5)

 今から6年以上前、僕がレコード会社をやめた頃はまだまだCDは売れていたが、何か地殻変動みたいなものは起こっていた。当時は(今もだけど)どんなジャンルのどんな個性のアーティストも、同じサイズの成功を求められていて(チャート何位だとかミリオンだ、、)同じ土俵で競わなければならないのが普通だったけど、これからはそれぞれのアーティストの個性に準じたサイズの「成功」が成立してゆくだろうなあ、という予感があった。

 実際自分でレーベルやって痛感したのは、それぞれの個性にあったやり方は成立するようになったが、それで"食っていける"というのはまた別問題だということだった。だが、よそに目を向けてみると、アーティスト自身が原盤を作って、数万枚売り上げているケースも増えてきている。大きなレコード会社や事務所のバックアップで何十万枚も売れたが、さまざまな欲望がうずまく世界のまっただ中に放り込まれるより、こういう方が精神的なストレスがなくていい、と判断するアーティストがでてきてもおかしくない。アーティスト自身が、どんなサイズの成功が自分にとって本当にハッピーなのかしっかりイメージすることが大事な時代になったのは間違いない。

 さて、話は変わて、誰もが簡単にパソコンのソフトを使って音源を制作でき、ネットで発表できるようになったことは、ポジティヴな見方をすれば、予想外の面白いものが作られる可能性が高まった、とも解釈できる。プロにはとても思いつかないようなこと、アマチュアリズムのすごさ、を発揮できる場が提供されたのだ。
 見方を変えると、メジャーレーベルは「プロフェッショナリズム」をより求めることが光明になるのじゃないかという、僕の勝手な見解がある。コアな音楽ファンじゃない層は、メチャクチャセンスがあるなんだかよくわかんない作品よりも、プロが本気出して作ったものをやっぱり支持するように思うのだ。不況の時代ってそういうものなんじゃないかと思う。

 さて、ネット時代のネガティヴな面だけど、いいものもひどいものも同じように混在して、いいものを見つけづらくなる現状もある。極端な個性に振り切れていないと目立てない。大きな配信サイトや大手ポータルサイトの音楽ページは、どうしても取り扱うものが似てしまうし、インディーズサイトはアーティストが多すぎてそれぞれのバンドの個性を際立たせるような機能にはなっていない。僕のように、自分では音楽をやらず、とにかくたくさん聴いて、場数だけとりあえず踏んできた人間などは、本腰を入れてネットに錯綜する音源の宝探しや交通整理をやるべきじゃないか、と思うこともあるが、ものすごく労多いばかり、、という気もする。
 長い間オーディションテープを聴く機会を与えてもらっていて、つくづく思うのは時代に関係なくほんとに才能のある人はかなり限られている、と痛感しているからだ。