音楽(3)

 少し前に出た茂木健一郎の「すべては音楽から生まれる」は、てっきり「音楽はこんなに脳にいいんだよ」という本かと思って読んでみたら、彼自身の強い音楽体験を語った「音楽へのラブレター」みたいなものだった。そういえば、それよりもうちょっと前に出た村上春樹の「意味がなければスイングがない」という本も彼の個人的な音楽体験と音楽観を正直に語ったものだった。
 実際読み物としては音楽関係者や音楽に詳しい人にはとりたてて「へー」というような驚くようなことは書いていない。この2冊をなんとなく物足りなく感じている人もいるかもしれない。(正直、最初は僕もそうだった。)
 
 だけど、ここで大事なのは、音楽とは異分野の第一人者で何らかの影響力を持つ人たちがここへきて「音楽への思い」を真剣に語り出したということだ。そして、そこには情報じゃなくて、ひょっとしたら共感されるかもしれない個人的な思いを託している。
これは端から見ても
「どうやら音楽を取り巻く環境がまずいことになってるぞ」と危機感を感じたからじゃないかと思うのだ。

 人生に大きな影響を与える音楽体験をした人が、そういった機会が徐々に失われているという今の世の中でできることは、自分の音楽への思いを声高に語ることだけなのかもしれない。
 音楽関係者は「音楽を職業としている身分」だから、そこで今時「音楽が好きだー」と声高に言ったら、アホだと思われるよー、と思ってるのかもしれない。でも、もはやカッコつけてる場合でもないだろう。すばらしい音楽体験は他の何にも換えられない。音楽関係者はその辺をきちんと自覚して、自負してふんばらねばならないだろう。きつい状況だけど。

 と、きれいごとを必死に自分に言い聞かせるように書いてる訳だけど、これからはもっと具体的に音楽業界のことを考えてみます。