グレン・グールド

vozrecords2008-05-28

 「知るを楽しむ」というテレビ番組で今月はグレン・グールドの特集をやっていた。僕はクラシックはあんまり、というかほとんど知識はないのだが、グールドの「ゴールドベルク変奏曲」のCDはずいぶん前に買って聴いていた。
 今から22年前(!)、僕はソニーミュージックに入社して、最初に営業の仕事に就いた。営業のルーティーンの仕事として、担当のお店の在庫を自分でチェックして、売れ筋商品がなくなっていたら注文をもらうというものがあった。そういう仕事を定期的にやっていると、洋楽、邦楽、ジャズ、演歌、アイドル、ジャンル問わず、売れ筋商品が記憶に刻まれるものだ。そして、ソニーのクラシックNO.1の売れ筋が「ゴールドベルク」だった。「グラモフォンに比べると、CBSソニー)のクラシックはぐっと落ちるねえ」などと言っていたある店主が「でも、ゴールドベルクだけは別格」と言っていたのを覚えている。
 そこまでのアルバムはどんなもんだろうと、僕は社販でこのCDを買って聴いてみたのだが、ほんとにびっくりした。
 ひとつの音符から次の音への間合いをひとつひとつもらさず入念に考えられたかのような演奏、曲全体を聴くというより、ひとつひとつの音符とその連なりを聴かせるようなもので、クラシックの知識のない僕も、今まで聴いたことのない何かすごい表現を聴いているんだなあ、と思ったのだ。だいたい、ピアノに合わせて不気味な声でハミングしているピアニストもはじめてだった。
 その後、CD化された、彼のモーツァルトベートーヴェンなんかも聴いてみたのだが、そっちは僕の理解できる範疇ではなかった。

 とか言いながら、今までグールドのプロフィールもまともに知らないままでいたのだが、今回テレビで見て興味深いことが多かった。
彼はあるときから(1964年)、コンサート活動をきっぱりとやめてしまい、レコーディングに専念するのだが、徹底的にテープ編集をやって完璧なテイクを作ることを常に目指していたらしい。テープ編集やパンチ・インというと、拙いアーティストのミスを隠すものと思いがちだが、彼の場合は生演奏では再現不可能な、より高次元の仕上がりを目指していたのだ。そして当時、これからはコンサートではなく電子メディアが音楽の表現を変えてゆくと予測し、実行していったのだが、音楽の世界はまったくその通りになった。

 そこで、思うのは、グールドが今生きていたら、どんな風に作品を発表していたかということだ。もし、音質の問題さえクリアしたら、ネットで自分のページを作り、そこから作品を発表していたのだろうか?それとも反動で生演奏にもどっただろうか?でも、それはなさそうか。とにかく、間違いなく誰もやっていない方法をとっただろう。ある特定の日時に、グールドの新しい録音が自身のネットで発表されるとかいうことがあったら、世界中からすごいアクセスになっただろうなあ。ユーザーも最も静かで集中できる場所にパソコンを移動させ、そこからの音の一音一音に耳を傾ける(今そんなふうにパソコンで音楽聴いている人はほとんどいないだろう)、みたいなことになったかもしれない。