ベン・シドラン、ジョージィ・フェイム

 昨晩はベン・シドランジョージィ・フェイムのライヴを見に丸の内「コットンクラブ」へ。僕はこのふたりのアルバムはけっこう聴いているのだが、ライヴは初めてだった。それにけっこう聴いているとはいっても、両者ともに初期〜中期くらいの作品に集中していて、この20年くらいの作品はよく知らないので、どんなレパートリーをやるのかちょっと不安でもあったのだが、とても素晴らしいライヴだった。
 ベン・シドランのほうは,確か僕が初めて聴いた彼のアルバムに入っていた、「on the cool side」や「mitsubishi boy」などもやってくれたし、ジョージィ・フェイムに至っては彼の43年前の全英NO.1ヒット「YEA YEA」を披露してくれた。しかし僕の個人的なこのライヴのハイライトは、ニール・ヘフティの「GIRL TALK」の共演だった。この曲はベン・シドランのレパートリーとして認知していたのだが(アルバム「CAT AND THE HAT」。正確には彼が参加しているクレモンティーヌの「SPREAD YOUR WINGS」というアルバムで聴いたほうが最初だったが)、一昨年末にジョージィ・フェイムの旧譜が一斉に再発された時にラインアップされていた「GEORGIE DOES HIS THINGS WITH STRINGS」(1969年)というアルバムで、彼の方が先にカヴァーしていたのを知った。ちなみにこのアルバムはタイトル通りストリングスをバックにビートルズバカラック・ナンバーを歌う、彼にしては”ヒップじゃない”ものだけど、60年代のストリングスを使った映画音楽やイージーリスニングが好きな僕には、けっこうツボのアルバムだ。そして、この「GIRL TALK」なのだが、ベン・シドラン・ヴァージョンはベンが新たに歌詞をつけたもののようで、そのヴァージョンもジョージィ・フェイムは2000年のアルバム「POET IN NEW YORK」でベンとのデュエットという形で取り上げていて、今回のライヴではこの歌詞で歌っていたようだ。ふたりの伊達男が小粋に歌う風情は曲調に見事にはまっていた。
 それにしても、ベン・シドランは予想通りの人物(知的でジェントルなアメリカ人)だったのに対して、ジョージィ・フェイムのキャラクターは予想外だった。もっとシブく気難しそうな英国紳士を想定していたのだが、ステージ上の彼はまったく屈託がなく、ざっくばらんな人間味と言うかあたたかみが感じられた。アーティストと呼ばれる人種には確かに気難しい人は少なくないのだが、プレイヤー/ミュージシャンに関しては非常に長く充実したキャリアを持つ人に限って、かえって気さくであたたかい人物が多いように僕は思うのだが、彼もそのタイプかもしれないと思った。クリエイターやアーティストである以前に根っからの”ミュージシャン”(演奏家)なのだ。知的でステージ上からもスマートなプロデューサー気質が感じられたベン・シドランと対照的だった。そしてもうひとつ思ったのは、声が若い頃とまったくと言っていいほど変わっていない。まるで神が授けたかのような”永遠の若者声”なのにびっくりした。R&Bやブルースなどを演奏するアーティストはほとんど、シブく枯れていくのが当然だと思っていたが、彼のような年のとりかたもあるんだなあ、とちょっと感激した。