Liga Oriente「Four Seasons of Broken Bossa」

vozrecords2008-02-16

 作曲家/トラックメイカーの藤本和則君。一般的に最も良く知られているのは、彼が作曲/編曲(トラックメイキング)したケミストリーのデビュー曲にしてミリオン・ヒット「PIECES OF A DREAM」だろう。しかし、その後もとても良質な仕事を続けていて、最近はHOME MADE 家族などもやっているようだ。彼の良さは、R&Bなど海外のクラブミュージックを物マネするのではなく、きちんと自分の中で咀嚼して、日本のポップスにとても上質な形で昇華させているところだ。
 実はボズレコードもレーベル発足第一弾、ariの「カザグルマ」の表題曲「カザグルマ」、正式に会社になっての第一弾、ハムニカフンの「Beautiful Days」の表題曲「Beautiful Days」という、節目節目の重要な曲のアレンジ/トラックメイキングをやってもらっている。
 彼のことを知ったのは実は10年くらい前、まだ僕がSonyMusicにいた頃で、僕がいた国内制作のセクションで彼のやっているユニットをリリースしようと検討したことがあった。その後、いろいろあって(早い話そのセクションが事実上消滅した。そして彼の相方のヴォーカルの女性がフラメンコダンサーを目指して音楽を止めてしまった)実現しなかったのだけど。
 彼とは長い間会ってなくて、最近久しぶりにホームページを見てみたら、昨年夏に自身のユニット「Liga Oriente」のアルバムをリリースしていたのを知って、遅ればせながらさっそく聴いてみた。
 この「Liga Oriente」こそ、僕のいたセクションでリリースを検討したというユニットだ(当時はユニット名はついいてなかったけど)。それから、2003年にタワーレコードのレーベル"bounce records"から発売された「FLAVOR IN THE AIR」という日本のシティポップのニュー・ウェイヴ的コンピレーションに僕は企画制作で参加して、ボズレコードからはariと遠藤慎吾が参加したのだけれど、そこにLiga Orienteも一曲参加していた。10年前にデモを聴き、4年前に一曲だけ聴き、そしてようやくアルバムとして聴くことができた。ちょっとした長い道程だった。
 この作品のタイトルにもある”Broken Bossa”は「クラブ・ミュージックを独自の感覚から咀嚼した緻密なビートが加味された、新感覚のボサノヴァ」ということだ。正直、僕はここ何年か「みんなボサノヴァやり過ぎ!」とほんと辟易しているのだが、さすがに彼のはひと味違って、ちゃんと日本のポップスに昇華されていて感心した。
 彼の作るトラックは、ぱっと聴くとさりげなくシンプルで聴きやすいんだけど、なぜかくり返しくり返し聴きたくなるのが特徴だ。ラーメン・スープにたとえるなら(こんなたとえは本人は喜ばないかもしれないけど)、あっさりしているが不思議なコクもあってやみつきになる秘伝のスープって感じだ。これは、きっと彼なりの研究の末たどり着いたもので、僕はその秘伝は何かはわからない。ただ、2曲だけしか一緒に仕事はしてないけど、さりげなく聴こえるトラックに、実は緻密に音色(ぱっと聴いただけでは判別できない楽器の音)が挿入されているのに驚いた記憶がある。それで僕は、意識的に聴こえる音と無意識にはいってくる音のブレンド具合がこの”やみつき”感になるのかなあ、などと勝手に推理している。
 このアルバムも、さりげなくくり返し聴きそうだ。僕が個人的に好きなのは、映画のサントラ的な作りにもなっているこのアルバムの主題曲「Four Seasons」。昔のイタリア映画をフラッシュバックさせるようなメロディーだ。