5周年

 ボズレコードの第一回作品、ariの「カザグルマ」というCDが発売されたのが2002年11月21日だから、今日でレーベル発足5周年ということになる。でも5年間で7タイトルしか出してなくて、これは5年以上続いてるレーベルのなかでは最少記録かもしれないと思ったが、仮にそうでも何の自慢にもならないので、特に調べようとも思わないけど。これは単に、限られた予算の中で、ある程度きちんと納得できる質の作品を作ろうと思ったらこうなった、という結果なのだが、その他の要因としては、この5年間でかなりドラスティックに音楽業界がかわったこともある。
 僕は15年間ソニーミュージックに勤務して、華々しい活躍はまったくなかったけれど、まるで見えない誰かが育成してくれたかのように、営業、洋楽、邦楽、宣伝、制作、音楽出版とかなりバランスよくキャリアを積むことが出来た。その経験をもってレーベルをスタートさせた当初は、「案外やれるじゃん。」とまで思ったものだが、「あれ?何かがおかしい、こんなはずじゃなかった」と思うことがどんどん増えてきた。今まで培ったキャリアがかえって足かせになっていると思うことが増えた。そして今は何かぼんやりとした、そして複雑にからみあった大きな物体が目の前に広がっているような気分になっている。
 もちろん決定的なのはPC、インターネットの影響だ。もう誰でも安価で、曲を録音し、CDを作り、ネットから配信できる。使い古された言い方だけど「音楽が溢れすぎている。」レーベル発足当初はまずは「良質」にこだわっていて、今もそれは変わってはいないが、「良質」だけでは、ネットに流れる膨大な楽曲から浮かび上がることは不可能だ。そして、「良質」にこだわりすぎるのは「自己欺瞞」につながる危険性も大きいことを経験的に学んだ。

 それで、何か新しい明確な方向性を今も見つけたわけではなくて、日々わりと悶々としているんだけれど、こういうときはシンプルに自分のモチベーションの原点を確認しようと、十代に好きだった音楽を集中して聴き続けてみた。特に僕の十代の最大のアイドル、ブルース・スプリングスティーンが素晴らしい新譜を出してくれたので、彼の作品をさかのぼって聴いて、彼の伝記のたぐいをまとめて読んだりもした。そこでひとつキーワードとして浮かんだのは「エネルギー」だ。十代の僕は音楽から「エネルギー」をもらっていたように思う。それが近年「癒し」だとか「慰め」みたいなことが、音楽に求められる主要素になっている。
 日々暮らしていると、まるで使い古した携帯電話のように、すぐに自分の電池が切れてしまうような気分になるが、(そういえば江原啓之さんが"愛の電池切れ"みたいなことをどこかで書いていけど、それとはちょっとニュアンスが違うかもしれない)そんなとき必要なのは「癒し」じゃなくて「充電」じゃないか。膨大な音楽の中から浮かび上がれるのは、「曲に込められたエネルギー」しかないという気になってきた。だけど、そのエネルギーはどうするんだ?どこから手に入れるんだ?ということになる。
 ちなみに僕が聴き始めた頃のスプリングスティーンは、連日連日5時間6時間のライヴをぶっ続けにやる、世界一のライヴパフォーマーと呼ばれていたけど、これは常人の10倍20倍のエネルギーを神から与えられたとしか言いようがない。ただ、そんな彼の昔のインタビューを読むと、意識的に一定期間なにもやらずにライヴをやりたくてしょうがない状態まで追い込んだり、観客にとってはこれが人生で一度きりのライヴかもしれないと、毎晩毎晩自分を叱咤してライヴに臨んでいたようで、やはり鍛錬と努力は、どちらにしろ必要なものらしい。
 それに、エネルギーといっても、激しいものばかりじゃなくて、ぽわーんとしてあったかいみたいなのもエネルギーには変わりないし、なにかクールなものもあるかもしれない。そこにさまざまなニーズがあるはずだと思う。
 ”聴いた人間が、なんらかのエネルギーが身体に満ちてくるのを感じるような音楽”
 とにかくアーティストもスタッフも、それぞれが自分の個性にあったやり方で、意識的にモチベーションと集中力を駆使してそれに挑むことが、まずは第一歩みたいな気がする。